中小企業庁「経営承継円滑化法」による総合支援について
2021年06月25日

後継者が事業を引き継ぐ際には多くのハードルがあります。
引継ぎと同時に起こりうるリスクとして相続税や贈与税の負担、そして相続によって先代の株式が分散してしまい経営のコントロールが難しくなるということがあります。
こうした状況から後継者候補が見つからず廃業を選択することもありえます。
このような課題を解決するために生まれたのが「経営承継円滑化法」です。
今回はこの法律の概要とメリットについて触れたいと思います。
経営承継円滑化法とは
2008年に成立した比較的新しい法律で、正式名称は「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」です。
主に中小企業に対し円滑な事業承継を行うため、相続時の遺産分割、資金需要や税負担に関する問題などへの総合的な支援策として成立しました。
条文改正前の3つの課題
①後継者に集約したい自社株が分散
→相続人が複数いる場合遺留分侵害額請求により相続財産である株が分散し、後継者による会社コントロールが難しくなる。
②相続人間の公平性の担保がもたらす弊害
→生前贈与で後継者に自社株を移した場合、実際の相続発生時の時価で相続財産が計算されてしまうことから、後継者の貢献により増加した株式価値増加分が相続人全員の相続財産に組み込まれてしまう。結果後継者のモチベーションの低下にもつながってしまう。
③事前放棄制度の実効性
→他の相続人が事前に遺留分を放棄する制度はあるものの、これを申請するのは放棄する側の相続人のためうまく活用されていない。
経営承継円滑化法の3つの柱
法律・条文・施行規則の改正を経て、より使いやすくなった経営承継円滑化法ですが、改正された経営承継円滑化法の要点は「事業承継税制」「金融支援制度」「遺留分に関する民法の特例」の3つです。
事業承継税制
事業承継税制は、都道府県知事から経営承継円滑化法の認定を受けた場合、相続税・贈与税の納税が猶予・免除される制度です。
対象:相続税・贈与税の納税猶予・免除の適用を受けようとする中小企業後継者
メリット:条件を満たすと税負担がゼロ
法律改正に伴い、これまでの施行規則では1名の後継者が想定されていましたが、改正に伴い最大3名までの後継者への承継も可能になりました。代表者以外からの贈与により株式を取得する場合(第二種認定)も、5年以内に申請書を提出すれば特例制度の対象です。
2027(令和9)年12月31日までの時限措置
適用のためには、2023(令和5)年3月31日までに、特例承継計画を各都道府県に提出することが必要。また税務署への申告も必要。
金融支援制度
都道府県知事の認定を受けた中⼩企業者及び後継者個⼈が、事業を承継する際に課題となる資金調達の支援が受けられます。
対象者:事業承継に伴い多額の資金ニーズが発生している中小企業とその後継者
メリット→中小機構からの共済、貸付などの金融支援も受けられるようになり、資金力のない企業・個人も事業承継を選べるようになりました。資金面のサポートを公庫等が行ってくれると事業承継成功の確率が上がります。
中小企業信用保険法の特例では、承継にかかる資金について融資を受ける際に、信用保証協会が積極的に保証を行えるように措置しました。(信用保険の別枠化による信用保証枠の実質的な拡大)
この他にも後継者個人に向けた株式会社⽇本政策⾦融公庫法及び沖縄振興開発⾦融公庫法の特例による融資制度を利用することもできます。
遺留分に関する民法の特例
対象者:相続による自社株式等の分散を防止したい中小企業の後継者
メリット→承継後の経営を安定できる
一定の要件を満たす後継者(親族外も対象)が、遺留分権利者全員との合意および所要の手続(経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可)を経ることにより、民法の特例の適用を受けることができます。
①生前贈与株式を遺留分の対象から除外「除外合意」
贈与株式を遺留分減殺請求の対象外とすることで、相続に伴う株式分散を未然に防止できます。後継者が贈与した事業用資産や非上場株式等を遺留分侵害請求の対象外とできます。
②生前贈与株式の評価額を予め固定「固定合意」
後継者の貢献による株式価値増加分を遺留分減殺請求の対象外とすることで、企業価値の向上を心配することなく経営に集中できます。
※遺留分とは、配偶者や子など(遺留分権利者)に民法上保障される最低限の資産承継の権利
後継者への生前贈与により、相続時に他の遺留分権利者が実際に得られた相続財産が「遺留分」に足りない場合に、後継者が、他の遺留分権利者から「遺留分」を取り戻すための請求(遺留分減殺請求)を受けるおそれがあります。
経営承継円滑化法の民法特例を受けるためには
一定の要件を満たす必要
特例中小企業の旧代表者が、後継者にその株式などを贈与した場合に、推定相続人の全員が合意したことについて、会社所在地の知事の認定があること、およびその後の継続的な確認を受ける必要があります。
認定・申請に関する窓口
申請者である中小企業者の主たる事務所の所在地(事業を営んでいない個人の場合は住所地)の都道府県です。
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu/kinyushien_madoguchi.pdf
今回は「経営承継円滑化法」についてご紹介しました。
小さな会社でも事業に必要な資金を確保し事業承継をすすめていくうえで有効な制度の一つです。
申請手続きには複雑な点も多いので、実際の利用を考える際には専門機関にご相談することをお勧めします。
【参考】
中小企業庁経営承継円滑化法による支援
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu.htm
経営承継円滑化法 申請マニュアル【相続税、贈与税の納税猶予制度の特例】令和3年2月改訂版
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku/manual_1.pdf
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